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2008年9月11日 (木)

コンビニ舞台

どうして夜、会社帰りにコンビニに寄ってしまうんだろう。まっすぐ帰ったほうがいい。べつに今買うべきものはない。でも、家に帰ってしまう前にふらりと立ち寄ってしまう。

たぶん、そこで会社と家の間にあるものを、仕事と生活の間にあるものを、探しているんだと思う。会社に奪われた自分の時間とか、家庭に奪われた自分の日常とかを、そこで埋めようとしているのだと思う。

街が寝静まった深夜、コンビニだけが闇に浮かび上がるように光っている。観客のいないステージのように光が落ちている。徹夜つづきで朦朧としていたから、気がつけば入口のドアを引いている。中にはひとり、おかしな格好の小男の客がいる。

山高帽というのだろうか。やけに背の高くなる黒い帽子をかぶり、下は黒いスーツを切り落とした半ズボン。すね毛は丁寧にそられていて、この蒸暑い夜にもブーツをはいている。立派な口ヒゲをたくわえているが、小男なだけに滑稽な印象だ。そしてコンビニのカゴを片手にもち、もう片方の手では黒い鞄とステッキを器用に握っている。

ほんとうの奇人かと思ったが、今日行われた大道芸人のイベント「だい・どん・でん」のことを思い出して納得した。そういう人がコンビニにいても不思議ではない夜なのだ。

大道芸人は、弁当を見ていた。のり弁を手にとっては首をひねり、スパゲティ−に目をやっては焼きうどんにも気をとられ、最終的に幕の内にいった。幕の内をじっと眺め、他の幕の内と比べていた。ときどきステッキを落した。そして選び抜いた幕の内の中の幕の内を持って、まっすぐレジへ歩いた。俺はビールを買って後ろに並んだ。

レジで店員は戸惑っていた。彼は「だい・どん・でん」のことを知らないのだろう。このへんな格好をした小男が何者かをはかりかねていた。奇人か、変人か、変態か。かごをレジ台に載せるとき、大道芸人は鞄とステッキをどさりと落した。面倒なのか、拾うそぶりすら見せず、いよいよ危ない奴に見えてきた。

支払いをすませて弁当をあたためている間、大道芸人は店員に怪しく笑いかけた。店員は「?」という顔をしていたが、サっと顔が青ざめた。大道芸人がスーツの裏ポケットにゆっくり手を差し込む、その仕種がちょうどナイフか何かを取り出しそうに見えたからだ。

「‥‥なんですか」

店員の声はふるえていた。
大道芸人はポケットから、さっと手を抜いて叫んだ。

「そォら!」

瞬間、店員は一歩のけぞったが、
ポケットから飛び出たのは、3つのボール。
ふわり、ふわりと宙を舞った。
ジャグリングだ。

「チン」と弁当があたため終わると、芸も終わった。
大道芸人は袋を下げて、あっさり出ていった。
店員は夢でもみているように惚けていた。

俺が会計を済ませコンビニを出ると、すぐそこで大道芸人が縁石に腰かけ、弁当を無心でパクついていた。イベントの打ち上げに出る金もないのだろうか。

大道芸人は俺を見なかったのか、見ないようにしていたのかはわからない。


text by 副編

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