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2006年10月31日 (火)

幸せな寂しさ〜日ハム優勝記〜

コンビニ、背広の男がケータイを片手にわざとらしい大声で言った。

「いま同点なの!?」

その一言で、店内の空気が変わった。茶髪ピアスの青年は、本を閉じて買物をはじめた。「逆転?ホームランか!」の声に、警備員らしき男二人は双子のように同じ表情で振り向いた。何を買わずに店を出る男。釣り銭を落とす女。慌て出す二人の店員。レジに人がたまりはじめる。

日ハムの日本シリーズ優勝が決定しようとしていた。

家に帰り、テレビをつける。その後は、ご存じの通りだ。稲葉のホームラン。新庄の涙。中継は中日無視。森本にウイニングボール。抱きつく。胴上げ。インタビュー。会見。ビールかけ‥‥選手からファンへ、ファンから選手へ、感謝は何度も交換される。歓声はメッセージを帯びていく。感謝が集まり祝福になる。ありがとうに近いおめでとう。歓声と拍手が遠ざかる。

翌朝、会社へ向かう。くもり空の下、歩道は黄色い落ち葉に覆われていた。エレベーターに乗り、あいさつをし、席に座る。この不思議な感覚を、なんていえばいいんだろう。あんなに熱狂した次の日が、こんなにあっけなく、平凡な日につづいているのだ。

その時、ふいに友だちのことを思い出した。彼は前の晩、結婚するんだよ俺、と電話で言った。結婚を決めた朝も、たぶん彼は普段通りに会社へ通勤したのだろう。優勝の翌日も、ファンはいつもの朝を過ごしたのだろう。引退を決めた新庄にも、変わらない朝が訪れたのだろう。でもその朝は、昨日とは別の新しい朝だ。

あのコンビニの前を通るだけで、昨夜のことを思い出してくる。街の落ち葉を踏む音さえ、小さな幸せの余韻を響かせる。楽しかった日々が終わっていく寂しさは、秋の地面に一枚一枚と舞い降りていく枯葉なのだ。

ファイターズが優勝した秋の北海道は、いま、幸せな寂しさに包まれている。

Ochiba


text by 副編

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