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2005年9月12日 (月)

8月の死にそうな話

karasu

昨日も徹夜だったが、今日も徹夜だった。夜が明けて1時間くらい。なのにすでに蒸し熱い。路上は無人だった。信号は意味がなかった。朝もやはないが、頭はボケていた。ときどき目を閉じて歩いてみた。クツのカカトを踏んでいたから、脱げて、履き直そうと屈んだら、ズボンのポケットからケータイが落ちた。ケータイを拾おうとしたら、胸ポケットからボールペンが落ちた。少し歩いてから、もう一度同じことをやった。二度目はボールペンを創成川に投げ捨てた。苦笑いする余裕はなかった。ハトにツバを吐いたら命中した。

アパートの向かいのゴミ捨て場に、屈みこんでいるデブがいた。上着を着てないクールビズ・デブ。デブはデブらしくワキ汗全開で、シャツは模様みたいに濡れていた。そいつは歩道にヒザをつき、カラスをゴミネットで抑えこんでいた。首をしめていたのかもしれない。通りすぎるとき、ギギギィという悲鳴を聞いた。歯ぎしりみたいな音だった。カラスは無表情だったが、開いたクチバシの隙間は真っ赤だった。スズメはそれとは関係なく普通に鳴いていた。エレベーターにのり、5階のボタンを押した。扉が閉まる直前、デブがこちらを見たような気がした。

昨日のように部屋のベッドに倒れた。昨日のように部屋はサウナだった。朝の光がさんさんで、カーテンは意味がなかった。全身から汗が吹き出た。すずめがチュンチュンチュンチュンやかましくなり、デブのことが気になりだしてきて、結局、起きてベランダへ出た。

見下ろすと、歩道にはデブと、距離をおいてカラスが2羽いた。見上げると上空にはもう1羽が旋回、かと思うと急降下してデブの背に一撃。ドス、と鈍い音。他のカラスも舞い上がった。コンクリートに影がびゅんびゅん行き交っていた。デブはYシャツを脱ぎ、それを盾として、または武器として、勇敢に振り回しはじめた。Yシャツを回すデブを中心に、カラスたちはうずを巻くように飛んでいた。それでも朝は静かで、スズメは普通に鳴いていた。黒いワゴンが一台、ボディーをぎらぎら光らせて走り去った。

もはやすっかり朝だった。太陽はガンガンきていた。団地の赤い屋根はさらに赤くなり、ビルの白い壁はさらに白くなった。遠くの山がくっきり見えた。子どもの絵のように単純な色だった。木も電柱もはっきりした影を落としていた。カラスたちは街路樹の枝にとまって、ギイギイと変な声で威嚇していた。デブは仁王立ちし、動かない太い影だったが、やがてゴミネットをめくりあげ、死んだカラスの体を足でずりずり寄せ、街路樹が立つ土のところまでもってきて、手で穴を掘り、埋めた。そして、あっさり立ち去った。

ベッドに戻った。眠たくて、眠れないくらい熱かった。じっとしていられないが、動きたくなかった。目は閉じていた。スズメは普通に鳴いていた。今日は徹夜だった。今日は川にボールペンを投げ捨てた。今日はカラスが殺された。今日はもう明日になった。すべてが追いつかない速さで飛び去っていった。何か頭の中にそれらしい感慨がよぎったが、太陽はガンガンきていた。何も考える余裕はなかった。容赦なかった。数時間後、出勤時に外に出ると、カラスはゴミをあさっていた。もう苦笑いするしかなかった。


text by 副編

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